映画note

見た映画の感想、考察を書いていこうと思います。

映画『ジョーカー』気になったポイントと考察 ※ネタばれ含む

映画『ジョーカー』を見ました。様々な意見が出ているようですが、個人的にはとても痺れる、見た後1週間たった今でも脳裏を離れない作品でした。

 私は、アメコミはあまり見たことが無く、バットマンも見たことが無かったのですが、それでも十分に楽しめる映画だと思いました。詳細なストーリーは他にも書いている方がいらっしゃいますので省きますが、この作品は"アメコミ"でイメージするものではなく、心優しい主人公が悪に染まっていく過程を描いたヒューマンドラマであることも、アメコミファンにとどまらないヒットの要因だと思いました。

 そして音楽がとても良い!!古き良き平和なアメリカの街を彷彿させるシナトラのテーマ曲がとてもかっこよかった。そしてそれを口づさ見ながら残忍な殺人をやってのけるアーサーの逸脱した狂気には、虐げられ続けた人間の感情をリアルに感じさせられ、恐怖のみならずどこか、美しさのようなものまで感じさせられたような気になりました。

 

 この映画を見て、気になったポイントは、主人公のアーサーが”ジョーカー”になるのにマストだった要因として、アーサーをたたえる民衆の存在があったことです。

 アーサーは精神病を持つ、コメディアンを目指すしがない男ですが、世間から虐げられる経験経て、悪の教祖ともいうべき”ジョーカー”に変身を遂げます。映画の中盤でアーサーは電車内でアーサーに暴行を加えたエリートサラリーマン3人を射殺してしまいます。通常なら、世間からも極悪の犯人に非難の声が上がるところですが、ここでは逆に、エリート階層を殺した犯人への賛美とともに、それに共感して犯人と同じピエロの格好でのデモ活動が巻き起こりました。さらに、映画のクライマックスでは、アーサーは、彼をテレビ放送で嘲笑した人気司会者を生放送中に射殺し逮捕されますが、ここでも街のピエロに扮したデモ隊はアーサーを賛美し、警察車両に車を追突させ彼を助け出します。ここで民衆から強い称賛を受けながら悪の教祖"ジョーカー"は誕生するのです。

 私は、残忍な殺人犯であるジョーカーを讃える民衆の存在が気になりました。

 以下の記事では、このように評しています。

『ジョーカー』の物語に世界中から集まる共感は、現代の人間社会に「顧みられることのない生きづらさ」が音もなく拡大していることを示しているのだろう。

障害や難病を抱える人、あるいは人種的・性的マイノリティーといった社会的弱者を包摂する流れが大きくなっている一方で、アーサーに代表されるような弱者──すなわち「不気味な存在」「気持ち悪い存在」「仕事のできない人」「要領が悪い人」などを、私たちの社会は敬遠している。

排除や疎外に苦しむ「顧みられない生きづらさ」を抱える人びとが、自分の窮状を一切顧みない社会の安寧秩序のために積極的に尽くそうなどと思うだろうか。

その一線を超えないギリギリのところで、声なき声を押し殺して懸命に生きている人が、この社会には実際にたくさんいる。劇中でエリートサラリーマンが殺害されたことを喜ぶゴッサムシティの人びとがいたように、少なくとも現実世界でも「リッチなヒーローの勧善懲悪物語」には、もはや多くの人が素直に賛同できない状況にはなりつつあるのだろう。"

この映画に共感が集まる理由がこう述べられているのです。更に、今のアメリカ社会についてこう述べられています。

いまアメリカでは若者層を中心にして、社会主義への人気が高まっている。それは資本主義が貧富の格差を拡大し、さらに自分たちを「顧みられない生きづらさ」へと追いやっているとの実感を彼らが抱いているからだ。

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/67821?page=2 

 

 私は、ジョーカーを讃えていた民衆は単なる映画上の演出ではなく、現実に多くのアメリカ合衆国民が抱えている不満の比喩ではないか、と思い至りました。現実にアメリカでは、貧富の差が広まり、若者の間で社会主義が急速に支持され始めているようです。大統領選に向けた民主党候補者争いでも、社会民主主義者と呼ばれるウォーレン氏が民主党内で1位になったとの報道がありました。映画の中で富裕層に敵意をむきだしにし、アーサーを讃えるあれだけの数の民衆がいたのは、現実にもそれだけの不満が高まっていることが背景にあるのではないか、だから賛否両論の議論を巻き起こし、多くの共感を得ているのではないか、と感じました。

 

 この映画は、鑑賞するだけにしても、とても面白い映画でした。心優しい主人公が、世間から虐げられ悪のカリスマに落ちていく様子は狂気に満ちていて、つよく心を揺さぶります。

 そして現実のアメリカに存在する、民衆の苦しみまでも、スクリーンを通して、見たかもしれない、、そんな気にさせられる深い映画でした。

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